腸管出血性大腸菌vs人類

腸管出血性大腸菌が、人類を襲っています。O157が初めて原因菌として特定された食中毒は、1982年の米国でのハンバーガーでした。1984年に大阪府でO157による下痢症、東京都でO145による集団下痢症が発生し、1990年に埼玉県浦和市(現・さいたま市)の私立「しらさぎ幼稚園」で死者2名、有症者268名にのぼる井戸水によるO157の集団感染が発生しました。1996年に岡山県邑久郡邑久町(現・瀬戸内市)でO157により死者2名、有症者468名の集団下痢症が発生し、その後、岡山県新見市、広島県、岐阜県(おかかサラダが原因)、神奈川県三浦市(牛レバーが原因)などでも発生し、同年、大阪府堺市の学校給食による学童の集団感染が発生し、患者数7996名、死者3名に至りました。原因食材としてカイワレ大根が疑われましたが真実は闇の中です。2006年には米国でホウレン草によるO157の食中毒で1名が死亡しました。2011年4/21以降、焼肉レストラン「焼肉酒家えびす」の生ユッケで、O111とO157により集団食中毒で4名がお亡くなりになったことは記憶に新しいです。

 

病原性大腸菌の1グループである腸管出血性大腸菌(EHEC:enterohaemorrhagic E. coli)が産生し菌体外に分泌する毒素タンパク質(外毒素)がベロ毒素(verotoxin)です。一部の赤痢菌(志賀赤痢菌、S. dysenteria 1)が産生する志賀毒素と同一のものであり、志賀様毒素(shiga-like toxin)ともよばれます。出血性の下痢や、溶血性尿毒症症候群(HUS)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、急性脳症などのさまざまな病態の直接の原因となる病原因子です。腸管出血性大腸菌のベロ毒素と赤痢菌の志賀毒素は、どちらもこれらの菌の染色体上に組み込まれたファージ上の遺伝子にコードされていることから、腸管出血性大腸菌と赤痢菌との間でファージを介して伝達された可能性が高いと考えられています。ということは、ベロ毒素は全ての大腸菌に伝達される可能性もあるということです(分かりやすく説明すると、赤痢菌がもっていたベロ毒素という武器の設計図を、多くの大腸菌ももつようになったということです。北朝鮮の核が、イランやシリアに拡散していったのと似ています)。ベロ毒素は腸管上皮細胞に作用して出血性の下痢を起こすだけでなく、その一部は血液中に吸収されて全身に移行します。ベロ毒素の受容体は、特に内皮系の細胞に多く、これらの細胞が多い腎臓にベロ毒素が作用すると、溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす原因になり、生命に関わります。但し、ベロ毒素などの外毒素はタンパク質のために抗原性を持っているから、人体に侵入すると抗毒素と呼ばれる抗体が作ら、個人により感染性の差が出てきます。

 

大腸菌はその名のとおり大腸に生息している菌で、糞便を培養すると検出されるのは当然です。しかし1945年にイギリスの病院で集団発生した乳児の感染性腸炎から検出された大腸菌を原因菌と考えるべきだとブレイ(Bray)が唱え、この大腸菌を腸管病原性大腸菌と名づけました。大腸菌の死菌をウサギに注射すると、菌体に対する抗体と鞭毛に対する抗体が出来ます。大腸菌の菌体の抗原性(O)と鞭毛の抗原性(H)により腸管病原性大腸菌が分類出来ます。腸管出血性かつベロ毒素を産生することのある大腸菌のO抗原としては、O1、O2、O18、O26、O103、O104、O111、O114、O115、O118、O119、O121、O128、O143、O145、O157、O165などがあり、そのうち、O157によるものが全体の約80%を占めます。加熱の不十分な食材から感染し、100個程度という極めて少数の菌で発症し感染症や食中毒を起こします。 そのため感染者の便から容易に二次感染が起きます。もともと牛などの糞便などから検出され、牛肉に付着する可能性が高いのですが、牛糞などを肥料に使う野菜にも付着する可能性があります。なお、牛に感染しても無症状です。一般的に牛の糞便でみつかる細菌の菌株は、通常、汚染された食物や水や動物との接触によって移動し、加熱が不十分な牛肉や、ビーフバーガー、(低温殺菌でない)牛乳、ヨーグルト、肉のパイ、チーズ、ドライ・サラミ、生野菜、搾ったリンゴ・ジュースなどの汚染食品を食べることによって感染します。さらに、肉の加工者や農場や飼育者の間でも、感染が散発しています。川や池や湖などの汚染された水でのスイミングや除菌されていない飲料水による感染も発生したことがあります。感染予防として、手洗い(普通の石鹸より、理想的には暖かい水の液体石鹸を使用するのが良い)、トイレの清潔(掃除には手袋を使用し、フラッシュ・ハンドル、便座、便器の表面、ドアのハンドルなどを少なくとも1日1回拭く)、タオルなどを共有しない、などが重要です。世界保健機関(WHO)は一般的な大腸菌予防策として「少なくとも食材の中心の温度が70℃に達するまで調理するように」と勧めています。

 

ドイツで2011/6/5までに19名の死者を出した腸管出血性大腸菌O104の感染経路として当初疑われていたのは、以前、スペイン南部のアルメリア(Almeria)とマラガ(Malaga)の2件のキュウリ農家でした。どちらも封鎖され、畑の土、水、肥料が調査されましたが、2件とも問題がないと判明し、スペインのキュウリが感染源でないことが分かりました。そして6/5にイツ北西部ニーダーザクセン州の農業相が明らかにしたところ、ニーダーザクセン州ユルツェン市近郊の企業が栽培した「豆もやし」から大量の大腸菌が検出されました。この「豆もやし」はドイツ北部の5つの州に出荷されましたが、商品はすでに回収され、農場も閉鎖されました。州政府は「豆もやし」を控えるよう呼びかけています。ドイツから始まった腸管出血性大腸菌O104感染により、6/5時点でO104の患者が出た国はドイツ(2001名、6/6には2263名)、スウェーデン(46名)、デンマーク(18名)、イギリス(11名)、フランス(10名)、オランダ(8名)、スイス(3名)、オーストリア(2名)、ノルウェー(1名)、ポーランド(1名)、チェコ(1名)、スペイン(1名)の欧州12ヶ国に加え米国(2名)に広がり、大半が、溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症しました。死者もドイツ人18名(6/6には21名)+ドイツへ旅行したスウェーデン人1名に達しましたが、ほとんどがドイツ北部を最近訪れた人だということです。ロシアが欧州連合(EU)からの生野菜輸入をストップするなど、貿易問題にも発展しています。

 

WHOによると、今回のドイツ発のO104は、これまで見つかっていない強毒の新種である可能性が高いということです。これまでの調査で、今回のO104は毒性と感染力が強い、これまでに知られていないタイプだということです。この病原菌の遺伝子を分析していた中国広東省深圳(しんせん)市にある研究所は、同菌が一部の抗生物質に対して耐性がある遺伝子を備え、極めて毒性が強いことが分かったと明らかにしました。同研究所の科学者は「この大腸菌は高い伝染性と毒性を持つ新種の細菌だ」と述べました。さらに、米疾病対策センター(CDC)のロバート・トークス(Robert Tauxe)博士は、同菌がこれまでで最も致死性が高いものであるとの見方を示しました。トークス博士は、同菌がどのようにして強い耐性を持ち得たのかはまだ分かっていないとし、抗生物質が効くという証拠はないと語りました。なお、トークス博士は2008年にトマトに関連したサルモネラ感染報告の増加なども指摘しています。

 

我が国でも2011年4月の「焼肉酒家えびす」の生ユッケ騒動以降も、6/2には焼き肉チェーン店「牛角 高岡店」(富山県高岡市)で食事をした客20名が下痢などの食中毒症状を訴え、うち15名から腸管出血性大腸菌O157が検出されました。重症者はいませんが、客は18~19歳の学生らのグループで、5/6にカルビやホルモンといった焼き肉のほか野菜サラダを食べ、5/7~5/14にかけて下痢などの症状を訴えました。症状がなかった6人からもO157が検出され、6/18に立ち入り検査しても菌は見つかりませんでした。焼く前の肉に触れた箸で食事をしたことなどが原因とみられています。富山県は6/2から3日間、同店を営業停止処分としました。「焼肉酒家えびす」の食中毒事件を受け、牛角は5/5以降、ユッケなど生肉の提供をやめていました。牛角チェーンを運営するレインズインターナショナル(東京都)は豪州産牛のハラミが原因の可能性が高いと判断し、委託先の加工先工場を別工場に切り替えました。

 

さらに6/5には千葉県旭市でも、保育所に通う1歳女児が下痢などの症状を示し、検査でこの女児を含む15名から腸管出血性大腸菌O145を検出されました。重症者はなく、いずれも回復に向かっています。女児を除く14名は同じ保育園の1~2歳の9名と、女児の50歳代の祖母と5歳の兄、保育所の30~60歳代の女性職員3名です。女児は5/27に発症し、医療機関の検査で5/31にO145を検出したため、ほかの子供らも検査していました。千葉県内では昨年、O157など腸管出血性大腸菌への感染が124件あり、うち4件がO145でした。

 

目に見えない敵に、我々は怯えなければなりません。保清に留意しましょう。

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シンガポールと日本…いずれが正しいのでしょうか?いつか歴史が証明してくれます

外務省は2011/4/1、福島第1原発事故を受けて日本からの輸入を規制する動きが各国に広がっていることを踏まえ、大使館を通じて集めた主要国・地域の規制措置の情報をホームページで公表しました。

URL:http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/gaisho/g_1104.html#1

それによると、3/31までに把握出来ただけで、8ヶ国・地域が産地・品目を指定して輸入禁止または一時停止の措置を取っています。禁止措置を取ったのは米国、中国、香港、韓国の4ヶ国・地域で、米国は日本国内で出荷制限のある品目、中国は福島、栃木、群馬、茨城、千葉産の乳製品、野菜、果物、水産物を対象とし、さらに米国、ロシア、シンガポール、台湾は一部品目の輸入を一時停止していますが、シンガポールは東京、静岡、愛媛産の野菜・果物まで対象に加えています。

シンガポールの基準は日本や欧州連合(EU)が採用する基準に比べて厳しく、シンガポールの基準値は1kg当たり100ベクレル、日本は2000ベクレルを暫定規制値としています。(ちなみにシンガポールは、静岡県産の小松菜1kg当たり648ベクレルの放射性ヨウ素131を検出したそうです。)シンガポールにおける日本産食品に対する輸入規制措置は、段階的に強化されています。

シンガポール農業食品家畜庁(AVA)が導入した日本産物品に対する輸入規制措置推移

2011/3/14

3/11以降に日本から輸出された水産品、果物、野菜、肉など生鮮食品について、サンプル検査を開始。

2011/3/23

日本国内で福島県、茨城県、栃木県、群馬県の牛乳と野菜に基準を超える放射能が検出されたことを受け、放射能が検出された県からの一部食品は即日輸入禁止措置がとられ、同4県からの牛乳、乳製品、野菜、果物、水産品、肉の輸入禁止措置導入。

2011/3/24

栃木産(三つ葉)、茨城産(水菜)、千葉産(菜の花)、愛媛産(青紫蘇)の野菜から基準を超える放射能がシンガポールにおける検査で検出されたことを受け、3/23から輸入禁止措置がとられている栃木産、茨城産に加え、千葉県産と愛媛産の野菜・果物の輸入禁止措置導入。

2011/3/25

日本から輸入した全ての果物、野菜、水産品、肉、牛乳・乳製品について、一時保留しての検査を義務付けに強化。検査で放射性物質の有無が確認されない限り、貨物を引き取ることは不可。放射性ヨウ素131、放射性セシウム134、セシウム137が基準値を上回った場合には、貨物は廃棄処分。

2011/3/26

神奈川産(キャベツ)と東京都産(ニラ)の野菜から基準を超える放射能がシンガポールにおける検査で検出、日本国内で埼玉産の野菜から基準を超える放射能が検出されたことを受け、同3県・都からの野菜・果物の輸入禁止措置導入。

2011/3/31

静岡県産の小松菜から基準を超える放射能がシンガポールにおける検査で検出されたことを受け、静岡からの野菜・果物の輸入禁止措置導入。

2011/4/1時点のシンガポールにおける日本産品に対する輸入規制

福島県、茨城県、栃木県、群馬県:牛乳、乳製品、水産品、肉、果物、野菜の輸入禁止。

千葉県、神奈川県、埼玉県、東京都、愛媛県、静岡県:果物と野菜の輸入禁止。

なお、日本からシンガポールに輸入された愛媛県産青紫蘇から微量の放射性物質が検出され愛媛県産野菜と果物の輸入を停止している問題で、愛媛県は3/29に愛媛県産とされた検査サンプルに福島県産の表示があったと発表しました。輸入停止措置を受け、在シンガポール日本大使館職員がサンプルを確認し日本の輸出業者がシンガポール政府に提出した輸入申告書に愛媛県産と記入されていたと判明したそうです。

この非常事態時に、このようなイージーミスがありえるのでしょうか? 一時危惧された産地偽装の問題はなかったのでしょうか?

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ゴイアニア被曝事故

ゴイアニア被曝事故(ポルトガル語でAcidente radiológico de Goiânia)とは、1987年9月にブラジルのゴイアニア市で発生した放射線事故です。同市内にあった廃病院に放置されていた放射線療法用の医療機器から放射線源格納容器が盗難により持ち出され、その後廃品業者などの人手を通しているうちに格納容器が解体されてγ線源のセシウム137が露出し、光る特性に興味を持った住人が接触した結果、合計250人が被曝し、そのうち4名が放射線障害で死亡したという被曝事故です。

ゴイアニア被曝事故とは関係ありませんが、2011/4/2午後0時40分ごろ東京電力が撮影した写真で、福島第1原発2号機の取水口付近で「ピット」とよばれるコンクリート製立て坑の亀裂から高濃度の放射性物質で汚染された水が勢いよく約2メートル下の海面に流れ落ちて白く泡立っているのが明らかにされました。東電は「ピット」にコンクリートを流し込んで流出を止めようとしましたが、汚染水の色が茶色からほぼ透明に変わっただけで、流量は変わらず、底の瓦礫が邪魔になって水面下の亀裂を塞ぐことができなかった可能性があるそうです。東電は4/3朝から「ピット」につながる管に水を粘液状にする高分子ポリマーを注入し、流れを遅くする方法を試みますが、効果は不明です。

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「茨城県の鹿島灘の魚は安全です」宣言

2011/4/2、茨城県鹿嶋市の「鹿島灘漁業権共有組合連合会」の小野勲会長は、茨城県の鹿島灘の魚から食品衛生法上の暫定規制値を超える放射性物質が出なかったという検査結果を受けて、「安全宣言」をしました。同連合会には大洗町、鹿島灘、はさきの3漁協が所属しています。県環境放射線監視センターの分析では、それぞれ1kg当たり、イカナゴ(大洗町沖)は66ベクレル、カタクチイワシ(同)は30ベクレル、ハマグリ(鹿嶋市沖)は19ベクレル、サヨリ(同)は11ベクレル、マコガレイ(神栖市沖)は3ベクレル、ヒラメ(同)は検出されず、という結果で、いずれも1kg当たり500ベクレルの暫定規制値を大幅に下回っています。

しかし、放射性ヨウ素やセシウムについては規制がないため調べていないそうです。

なぜ、この期におよんで「規制」なのでしょうか? 本当に安全だと消費者を納得させるには、検出されないことを測定すればいいのではないのでしょうか?

ちなみに、放射性ヨウ素(I-131)の半減期は8日ですので原発からの新たな放射性物質の飛散がない限り1~2ヶ月も経てば考える必要がなくなりますが、放射性セシウム134(Cs-134)と放射性セシウム137(Cs-137)の半減期は、それぞれ2年と30年です。放射性セシウム137(Cs-137)に至っては、1/4になるには60年、1/8になるには120年かかるということです。

120年以上も経てば「安全」といえるのでしょうが、多分その頃には、僕は生きていないと思います。

放射線総量は僕たち素人でもガイガー・カウンターさえ購入すれば測定して自分でもチェックすることが出来ますが、放射性ヨウ素と放射性セシウムの量は素人で測定出来ません。

「安全宣言」に対する不信を取り除くためには、放射性セシウムの量も測定してもらいたいものです。

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井伏鱒二さんの「黒い雨」

広島での被曝をテーマにした小説に、井伏鱒二さんの「黒い雨」があります。昭和四十(1965)年に「新潮」で連載され、当初は「姪の結婚」という題でしたが、連載途中で「黒い雨」に替わり、今村昌平監督のもと平成元(1989)年に同名の「黒い雨」として映画化もされています。

黒い雨とは、原子爆弾が投下された広島および長崎の両者、そしてフランスの核実験場であったムルロア環礁や、ソ連の核実験場であったセミパラチンクス周辺で原子爆弾投下後に降った、原子爆弾炸裂時の泥や埃や煤などを含んだ重油のような粘り気のある大粒の雨で、放射性降下物(フォールアウト)の1種です。放射線の作用として水が黒くなるわけではありません。広島市では、主に北西部を中心に大雨となって激しく降り注ぎ、黒い雨は強い放射能を帯びていたため、この雨に直接うたれた者は、二次的な被曝が原因で、頭髪の脱毛や、歯ぐきからの大量の出血、血便、急性白血病による大量の吐血などの急性放射線障害を引き起こしました。大火傷、大怪我をおった被爆者達はこの雨が有害なものと知らず、喉の渇きから口にするものも多かったということです。原爆被災後、他の地域から救護・救援に駆けつけた者も含め、今まで何の異常もなく元気であったにもかかわらず、突然死亡する者が多く、水は汚染され、川の魚はことごとく死んで浮き上がり、この地域の井戸水を飲用した者の中では下痢をすることが非常に多かったということです。主成分は、炭素、珪素、鉄、原爆由来のウランで、この雨の跡から今話題のセシウム137(半減期30年)が微量検出されています。広島大学原爆放射線医科学研究所の星正治教授らが、爆心地から8km離れた「小雨地域」の土よりセシウム137を検出しています。

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東大病院で放射線治療を担当するチーム「team nakagawa」と東大の早野龍五先生

東大病院で放射線治療を担当するチーム「team nakagawa」では、医師の他、原子力工学、理論物理、医学物理の専門家がスクラムを組んで、福島原発事故に関して正しい医学的知識を提供し、ブログとtwitterで発信しています。

ブログURL:http://tnakagawa.exblog.jp/

Twitter URL:http://twitter.com/team_nakagawa

2011/4/2の記事は

「福島第一原発30km圏における被曝」と題されています。

2011/3/31一部が福島第一原発30km圏内に含まれる飯舘村の住民全員を、退避させるか否かで議論が沸き起こり、戸惑われた方も多くいらっしゃると思います。

発端は、国際原子力機関(IAEA)が、「飯舘村で観測された放射性物質の量は、避難基準を上回っている」とし、飯舘村の状況を注視していくよう、日本政府や関係する機関に促したことにあります。

(4/1の発表では、3/19~29の間の平均では、避難基準内と発表)

これを受けて、原子力安全委員会は、「日本は空間線量率(環境放射線測定で得られる「1時間あたりの線量(μSv/h)」のこと)や浮遊物の呼気による吸入、飲食物の摂取などを勘案し、土壌ではなく人が受ける放射線レベルで退避などの防災基準を判断している」として、現在の避難区域の設定は妥当であるとの見解を示しました。

また、原子力安全・保安院も「24時間外にいた場合、避難の基準となる50mSv(ミリシーベルト)の放射線量を浴びることになるが、普通の人の場合はそういうことにならない」と指摘。実際には、普通の人が外にいる時間は8時間程度と仮定すると、浴びる放射線量も避難基準値の半分ぐらいになる、と説明したとのことです。

この問題を論じる前に、法律上の「一般公衆の線量限度」と、医学的に設定されるべき「一般公衆の線量限度」を整理したいと思います。

まず、「一般公衆の線量限度」は法律(「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」)では、実効線量で年間1mSvと定められています。屋内退避及び避難の判断基準となる線量については、外部被ばくによる予測実効線量(防護活動又は復旧対策をとらない場合に予測される線量)でそれぞれ10~50mSv及び50mSv以上となっています。

URL:http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/bousin/bousin003/siryo6.pdf

医学的には、実効線量250mSv以下であれば確定的影響はまず見られません。100mSvの被曝により、発癌リスクが0.5%上昇すると考えていますが、それ以下では、はっきりとしたリスクの上昇は観測されていません。

非常にゆっくりと被曝する場合には、瞬時に同じ量を被曝するよりも、効果が弱まることも想定されます。したがって私たちは、乳幼児も含め、実効線量100mSvの被曝量を医学的な線量限度の指標の一つと考えています。

ただし、妊娠中の方に対しては、もっと厳しい基準を設けるべきです。専門家の間でも議論はありますが、妊婦の方に安心していただけるよう、妊娠中の被曝線量限度を10mSv以下にすべきであると考えています。(国際放射線防護委員会レポート84)

URL: http://www.icrp.org/publication.asp?id=ICRP%20Publication%2084

それでは、これまで飯舘村で観測された環境放射線測定データを見てみましょう。東大の早野龍五先生が毎日更新してくれています。

東大の早野龍五先生による環境放射線測定データ

環境放射線測定データ

URL:http://plixi.com/p/88495151

(著者注:この中で早野龍五先生は「4/1午前9時まで減り続けているとはいえ、積分線量が上がっている)と警鐘を鳴らされています。」

4/1までの積算線量(放射線の総量)は、すでに「公衆被曝」の上限(一般の人の被曝の上限)である1mSvを超えていることがわかります。しかし、まだ10mSv未満です(私たちが考えている、妊婦の被曝線量の限度が10mSvです)。

またこの積算線量は、原発事故が起こってからこれまでの間、“環境測定モニタの近くにずっといた場合”ですので、住民の皆様の実際の外部被曝量より少し多めに見積もっていることになるでしょう。また、今後、原発から放射性物質の大きな飛散がなければ、放射線もどんどん少なくなっていくと考えられます。

ただし、注意しておくことがあります。一つは“放射性セシウムの影響”です。上記の図(環境放射線測定データ)では、時間が経つにつれ、1時間あたりの線量がどんどん小さくなっていることがわかります。

これは、放射性ヨウ素が、「崩壊」によって放射線を出しながら、どんどん少なくなっていることが原因と考えられます。放射性ヨウ素131(I-131)は8日で半分になります(半減期が8日)。したがって原発からの放射性物質の飛散がない状態が1~2ヶ月も続けば、I-131は考える必要がなくなります。

それに変わって環境放射線で支配的になってくるのが“放射性セシウム”の放射線です。放射性セシウム134(Cs-134)と放射性セシウム137(Cs-137)の数が半分になる時間は、それぞれ2年と30年であるため、I-131よりも長い期間、環境に影響を及ぼすことになるのです。

URL:http://tnakagawa.exblog.jp/15135577/

(著者注:4/2午前8:10の早野龍五先生のツイートでは

【セシウム注意!】日本分析センターのデータでもう一つ注目すべきことは、(千葉の)

空間線量への短寿命のヨウ素の寄与は減り続け、すでに長寿命のセシウムの寄与が主となっていること。飯舘村などでの積分線量を計算する上で,これは極めて重要。(雨が降るとヨウ素:セシウム比が逆転する!)

とあります。)

URL:http://twitter.com/hayano/status/53957345360879616

もう一つ注意すべきことは、環境放射線測定データだけでは“内部被曝”の寄与が見積もられていないという点です。

内部被曝には、飲食物や呼吸による摂取、皮膚からの吸収などがあります。飯舘村における内部被ばくの影響について、私たちteam_nakagawaは、データを用いた数値化がまだできておりません。

そこで、1986年にチェルノブイリで起こった原発事故における、ベラルーシ・ホメリ地域(原発から200km程度の距離)の方々の「内部被曝」と「外部被曝」がほぼ等しい、という解析をここでは採用することにします。

URL:http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/pub1239_web.pdf

この仮定に立って、内部被曝まで考慮した場合、飯舘村の実効線量はすでに10mSvを超えているおそれがあります。これまでの記述の中で、私たちは、外部被曝を少し多めに見積もっていると述べました。しかし、飯舘村の中でも、位置によって環境放射線に差が出ていることも考えられ、その最も放射線量が高い場所では、実際に実効線量が10mSv程度になっている方がおられる可能性があります。

もちろん現時点で、私たちは、この数値(放射線量)の被曝が、一般の方々の健康に影響を及ぼすとは考えていません。しかし、妊婦の方に対しては、万が一のことを考え、政府や関係機関が対策を検討すべき観測量に達していると思います。

今後、放射性セシウムの量により、環境放射線の減少幅が少なくなってくることが予想されます(放射性ヨウ素は半減期8日で半分になっていきますが、放射性セシウムは半減期が2年あるいは30年と長いため、なかなかセシウムが減少しないのです)。

URL:http://tnakagawa.exblog.jp/15135577/

ヨウ素やセシウムの他に、ここではまだ考慮していない核種(放射性物質)の存在もあります。また、文科省が、継続して観測してきた、多くの地点での取得データを解析すると、原発から同じ距離を離れても、飯舘村のように高い環境放射線を計測する地点もあり、そうでない地点もあることが、よくわかってきました。こうした点を認識し、政府や関係機関は今後の対応を協議していく必要があるでしょう。

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仏放射線専門家グループが、今すぐヨウ素剤を配布する必要があると表明

ロイター通信によると、2011/3/31にフランスの放射線専門家グループCRIIRAD関係者が、福島第1原発事故を受け、放射性ヨウ素による甲状腺被曝を防ぐ効果がある安定ヨウ素剤を、直ちに出来るだけ広範囲に配る必要があると表明しました。さらに、日本の原子力安全委員会は放射性物質の影響を過小評価していると批判しています。CRIIRADによると、安定ヨウ素剤の配布を怠った場合、甲状腺癌の患者が今後数年で急増する可能性があるといいます。早急に出来るだけ広範囲で配れば、まだ遅すぎることはないそうです。

実際にフランスのフィヨン首相は2011/3/16の時点で、被曝による健康被害に備えるため安定ヨウ素剤の錠剤1万個も在日フランス人に運ぶと表明していました。フランス外務省によると在日フランス人は約9千人で、約5千人が東京とその近郊にいましたが現在は約2千人に減っています。

残った約1万人に1万個の安定ヨウ素剤を配布するというわけですから、我が国でも、被曝の危険性がある人の人数分だけの安定ヨウ素剤は確保・配布しなくてはならないと思うのですが・・・

マスコミは問題提起すらしてくれません。

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放射能拡散シュミレーション

ドイツで公開された福島第一原発の放射能拡散シュミレーションです。我が国中部地方や太平洋に拡散していく様子が分かります。詳しい感想についてはノーコメントですが、いずれ漁業被害とかも出てくるのでしょうね。

URL:

http://www.zamg.ac.at/aktuell/index.php?seite=1&artikel=ZAMG_2011-03-16GMT09:50

ドイツの「Spiege ON LINE」でも公表されています。

URL:

http://www.spiegel.de/images/image-191816-galleryV9-nhjp.gif

放水した水や海水に含まれた放射能は、どこにいっちゃうのでしょうか?

福島県の土壌に吸われるのでしょうか?

太平洋に渡った放射能は、薄まりながらも、全世界を覆うのでしょうか?

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チラーヂン

CMでもお馴染のジェネリック薬品(後発品)・・・

医療経済を救うためのものと思われていますが

利益追求は、大手薬品会社より酷いものがあります。

利益率の高い新薬の後発品の開発ばかりに始終し

利益の幅の薄い薬品にはてをつけません。

今回の東北地方太平洋沖地震で

武田薬品工業系列の「あすか製薬」が被災されました。

「あすか製薬」は中小企業ですが

「チラーヂンS」とか「リピディル」などの優れた医薬品を製造していました。

今回の被災で、「あすか製薬」の工場は破壊され

「チラーヂンS」の供給がストップしました。

「チラーヂンS」は甲状腺機能低下症の患者さんにとって命綱ともいえる薬ですが

高価でないため、後発品がありません。

供給不足で困ったものです。

これも国策だったのでしょうか?

原子炉をコンクリート詰めにしないならば

せめて代わりに

赤い指導者を、コンクリート詰めにしたいほど

憤りを感じます。

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素人指揮官

科学的根拠は何も分からないまま

ヒアリングだけして政治的判断を下す姿を見て

羨ましく思います。

人体には安全であるはずの現地には向かわず

遠隔操作のように、遠くから指示を出すだけということが許されるのであれば

これからは医療も同じような態度でも許されるのでしょうか?

自分の目で確認することもせず

他人の意見ばかりを頼りに素人判断して

コメントを二転三転させ

あげくには、専門家に責任転嫁する・・・

今まで反核とか憲法九条とかを論議してきたはずですから

核の怖さについて、熟知しているはずです。

突然の天災だという擁護は不要です。

子供たちは、こんな大人を見て育っていきます。

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